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ご自身の性と身体のあり方に違和感を持ち、深く悩まれている方へ。

ホルモン治療や第二次性徴を抑制する治療は、ご自身が自認する性へと近づき、性別違和に伴う苦痛を和らげるための重要な治療選択肢です。

あべメンタルクリニックでは、「性別不合に関する診断と治療のガイドライン(第5版)」に準拠し、お一人おひとりの思いに寄り添いながら、安全で適切な医療を提供できるよう、精神科医としての診断からホルモン剤の処方、そして専門医療機関との連携までを一貫して行っています。

ホルモン治療を開始するための条件

安全かつ倫理的な観点から、ホルモン治療は希望すれば誰でもすぐに開始できるわけではありません。「性別不合に関する診断と治療のガイドライン」では、以下の条件を満たすことが求められます。

  • 精神科専門医による診察の結果、「性別不合」であるとの確定診断がなされていること。
  • 身体的治療の妥当性について、複数の専門家で構成される「判定会議」での承認が得られていること。
  • ホルモン治療の効果、副作用、リスク、不可逆的な変化について十分な説明を受け、深く理解した上で、ご本人が治療を強く望んでいること(インフォームド・コンセント)。
  • 原則として18歳以上であること。(※15歳以上18歳未満の方については、より慎重な検討と、本人および保護者の同意のもとで進められる場合があります。ご相談ください。)
    ※第二次性徴を抑制する治療(GnRHアゴニスト療法)は、下記の条件とは異なり、より早期から開始できる場合があります。
  • 治療の継続を妨げるような重篤な精神疾患がなく、精神的に安定した状態であること。

ホルモン治療の種類と期待される効果

ホルモン治療は、自認する性に応じて使用する薬剤や投与方法が異なります。定期的な通院による注射や、ご自宅で使用できる内服薬、外用剤(塗り薬・貼り薬)などがあり、ライフスタイルやご希望に合わせて選択します。

AMABの方 (Assigned Male at Birth) / MTFの方へ【女性ホルモン療法】

エストロゲン(女性ホルモン)製剤を主に使用し、必要に応じて抗男性ホルモン剤を併用します。

  • 治療の種類: 定期的な筋肉注射、内服薬、経皮吸収型の貼り薬・ゲル剤 など

期待される主な効果は以下の通りです。

  • 乳房の発達
  • 体脂肪の分布が女性的に変化(腰回りや太ももなど)
  • 皮膚のきめが細かくなる
  • 筋肉量の減少、筋力の低下
  • 精巣の萎縮、精子を作る能力の低下・停止
  • 性欲の減退、勃起能力の低下
  • 体毛の減少(軟毛化)

AFABの方 (Assigned Female at Birth) / FTMの方へ【男性ホルモン療法】

テストステロン(男性ホルモン)製剤を使用します。

  • 治療の種類: 定期的な筋肉注射、外用ゲル剤 など

期待される主な効果は以下の通りです。

  • 月経の停止
  • 声が低くなる(声変わり)
  • ひげや体毛の増加
  • 筋肉量の増加、筋力の上昇
  • クリトリスの増大
  • 性欲の亢進
  • 皮脂の分泌増加、にきび

※効果の現れ方や程度、時期には個人差があります。

ホルモン治療の副作用とリスク【特に重要なこと】

ホルモン治療は、身体に様々な変化をもたらすと同時に、健康上のリスクも伴います。安全に治療を続けるためには、副作用について正しく理解し、定期的な検査を受けることが不可欠です。

AMAB (MTF) の方の主なリスク

  • 血栓塞栓症: 最も注意すべき重大な副作用です。血管内に血の塊(血栓)ができ、肺や脳の血管を詰まらせることで、命に関わる可能性があります。特に喫煙者や肥満、高齢の方はリスクが高まります。
  • 肝機能障害、脂質異常症
  • 高プロラクチン血症、乳がんのリスク
  • 心血管疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)のリスク上昇

AFAB (FTM) の方の主なリスク

  • 多血症: 赤血球が増えすぎて血液がドロドロになり、血栓症のリスクが高まります。
  • 肝機能障害、脂質異常症
  • 重度のざ瘡(にきび)、男性型脱毛
  • 睡眠時無呼吸症候群の悪化
  • 長期的な卵巣・子宮への影響

思春期の方へ:第二次性徴を抑制する治療について

思春期の早い段階でご自身の性に違和感を持ち、第二次性徴による身体の変化(声変わり、月経、乳房の発達など)に強い苦痛を感じる方のために、「第二次性徴を抑制する治療」という選択肢があります。

GnRHアゴニスト療法

この治療では、GnRHアゴニストという薬剤を使用します。この薬剤は、脳下垂体からの性ホルモン分泌の指令を抑えることで、第二次性徴の進行を一時的に停止させることができます。

  • 目的:望まない第二次性徴による身体の変化を食い止め、精神的苦痛を軽減します。また、将来ホルモン治療や外科的治療を行う際に、より良い結果を得やすくする目的もあります。
  • 可逆性について: この治療は、薬の投与を中止すれば再び第二次性徴が進行するため、多くの変化は「可逆的」とされています。これにより、ご自身の性についてじっくりと考える時間を確保することができます。
    一方で、思春期の正常な発達を長期間抑制することによる影響(骨塩量の低下や、将来の妊孕性への影響など)が完全には解明されておらず、「完全に可逆的とは言えないのではないか」という意見や議論もなされています。そのため、治療の開始と継続にあたっては、メリットと潜在的なデメリットを十分に理解し、慎重に検討を重ねることが極めて重要です。
  • 開始時期:ガイドラインでは、第二次性徴が始まっていること(タナー段階II度以上)を条件としており、本人の意思と保護者の同意のもと、慎重な検討を経て開始されます。

この治療も、判定会議での承認や、連携する小児科医・内分泌科医との協力のもとで進めていく必要があります。思春期のお子様のことでお悩みの保護者の方も、ぜひ一度ご相談ください。

ホルモン治療の料金について

当院でのホルモン治療は、原則として自由診療(保険適用外)となります。以下に代表的な治療の料金(目安)を記載します。

治療内容 料金(税込)
AFAB (FTM) の方向け
テストステロン 筋肉注射(1回) 約1,000~2,000円
(通常、2~4週間に1回のペースで投与します)
長期持続型テストステロン 筋肉注射(1回) 約16,500円
(通常、3~6箇月に1回のペースで投与します)
AMAB (MTF) の方向け
エストロゲン 筋肉注射(1回) 約1,000~2,000円
(通常、1~2週間に1回のペースで投与します)
内服薬・経皮吸収剤 (約1ヶ月分) 薬局での自費負担
第二次性徴抑制治療
GnRHアゴニスト 点鼻薬(1瓶) 約5,000~7,000円
(1日3~6回、左右の鼻腔に1噴霧ずつ投与します。症状により適宜増減されます。1週間に1瓶のペースで消費します)
GnRHアゴニスト 注射(1回) 約15,000~25,000円
(通常、4週間に1回のペースで投与します。当院では取り扱いはありません)

※上記は薬剤費・手技料を含んだ金額です。
※初診・再診の際には、別途診察料が必要となります。
※治療開始前や治療中は、安全性を確認するために定期的な血液検査(別途料金)が必要となります。
詳細な費用については、診察時にご説明いたしますので、お気軽にご相談ください。

不可逆的な変化と将来への影響

ホルモン治療による変化の中には、治療を中止しても元に戻らない「不可逆的な変化」があります。特に将来の人生設計に関わる重要な点ですので、治療開始前によく考える必要があります。

  • 生殖機能(妊孕性)への影響: ホルモン治療は、精子や卵子を作る能力を低下させ、永続的な不妊につながる可能性が高いです。将来、自分の遺伝子を持つ子供を望む可能性がある場合は、治療開始前に精子凍結保存卵子凍結保存といった選択肢について検討することが推奨されます。
  • AFAB (FTM) の方の声変わり: 一度低くなった声は、治療を中止しても元には戻りません。
  • AMAB (MTF) の方の乳房発達: 発達した乳腺組織は、治療を中止しても完全にはなくなりません。

当院での治療の流れとサポート体制

あべメンタルクリニックは精神科・心療内科として、ホルモン治療における診断から実際の治療、精神的サポート、そして必要に応じた身体的治療を行う医療機関との連携までを担います。

  1. Step 1: 初診・継続的なカウンセリング
    ご自身の性別違和に関する悩みや経緯、生活状況などを詳しくお伺いします。必要に応じて心理検査も行います。
  2. Step 2: 診断
    「性別不合に関する診断と治療のガイドライン」に基づき、複数の精神科医によって慎重に診断を行います。
  3. Step 3: 判定会議による承認
    診断後、身体的治療(ホルモン治療や外科的治療)の妥当性について、精神科医・身体科医(産婦人科医・泌尿器科医)など複数の専門家で構成される「判定会議」にて検討・承認を行います。
    この浦安ジェンダークリニック委員会の判定会議は、当院院長の阿部が委員長を務めております。豊富な知見に基づき、一人ひとりにとって最適な治療方針を多角的に検討します。
  4. Step 4: 意思決定のサポート
    判定会議の承認後、ホルモン治療を含む様々な選択肢について、効果やリスクを改めて丁寧に説明します。ご本人が納得して治療法を選択できるよう、時間をかけてサポートします。
  5. Step 5: 当院でのホルモン治療開始、または連携医療機関へのご紹介
    ホルモン治療の開始が決まったら、安全な治療を提供するために必要な血液検査等を行い、当院にてホルモン剤の処方を開始します。ご希望や必要性に応じて、より専門的な身体科へ紹介状を作成し、連携して治療を進めることも可能です。
  6. Step 6: 治療開始後の継続的な精神的・身体的サポート
    ホルモン治療が開始された後も、定期的な血液検査で安全性を確認しながら、身体の変化に伴う心の動きや生活上の悩みなどについて継続的にサポートします。

一人で悩まず、まずはご相談ください

性に関する悩みは非常にデリケートで、誰にも相談できずに一人で抱え込んでしまう方も少なくありません。あべメンタルクリニックは、あなたの思いを尊重し、安心して話せる場所でありたいと考えています。

ご自身の性について、これからの生き方について、専門家と一緒に考えてみませんか。まずはお話をお聞かせください。

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